「こんなこともあろうかと」と言えないときに~IT中間管理職のコンティンジェンシー / Plan B, IT Middle Manager’s Contingency. |
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「こんなこともあろうかと」
「プランBって?」「それはこれから考える」なんてやりとりは映画によくありますが、マネジメントやプロジェクトの中ではそんなことはない?でしょうか。不測の事態はどうやっても起きるものです。
「こんなこともあろうかと」という有名な真田さんのセリフは、技術屋やプロジェクト・マネージャーでなくとも一度は言いたい台詞です。蛇足ですが、本当は真田さんの決まり文句は「テストもしていないのに」の方だそうです。システム屋としては、こちらの方が”あるある”ですね。
そもそもコンディンジェンシーとは
プロジェクト・マネジメントに関わっている人でも”コンティンジェンシー”の定義が曖昧な人を散見します。
計画が予定通り実行しない予想がリスクです。赤字や情報漏えいなどネガティブなことはもちろんリスクですが、工期が早くなる、為替相場が良くなるなどのポジティブな要因もリスクです。これらに対する対策がリスクマネジメント=コンティンジェンシーです。「こんなこともあろうかと」ですね。
戦略や計画の中で、市場動向や経験から想定されうるリスク(最悪の場合)は、事前に具体的なコンティンジェンシーを検討することができ”既知の未知”を言われます。反面、突発的な市場悪化やインシデントなどは想定しえず”未知の未知”と言われます。
”既知の未知”は”コンティンジェンシー予備”というプロジェクト・マネージャーの采配になりますから、中間管理職としては部下のプロジェクト・マネージャーに管理させることになります。一方、”未知の未知”は”マネジメント予備”として、中間管理職も一緒になりスポンサー(経営層や顧客)の承認を得て対応しなければなりません。
”はやぶさ”のケース
最悪のケースを考え抜いたコンティンジェンシーの結晶ともいえるのが、人工衛星”はやぶさ”のコンティンジェンシー=「こんなこともあろうかと」です。
エンジンをニコイチにできるようにしておいたり、太陽光を軸調整に使える設計にしておいたりと”最悪の状況”を想定しぬいて設計していたのです。エンジニアとしての生みの苦しみは計り知れませんが、それ以上に実際のコンティンジェンシー発動は燃えるポイントです。技術屋としてかくありたいものです。ですが、管理者としては、もう少し違った視線も必要です。
IT中間管理職のコンティンジェンシープランは”未知の未知”の対策
ここでは管理者としての「こんなこともあろうかと」を考えます。
プロジェクト・マネージャーに比べると直接的な采配は少ないです。プロジェクトに対するコンティンジェンシーを持つのはあくまでプロジェクト・マネージャー。
管理職はプロジェクト・マネージャーではありませんから、具体的なコンティンジェンシーは施策もコストもスコープではありません。いわゆる”未知の未知”や”マネジメント予備”が管理者のスコープになります。
- リソース調整
- 部門間、社外調整
- 金策
管理職がアクションするリスク対応の場合、すでにリスクがかなり表面化していて、プロジェクト・マネージャーの手に負えなくなっている場合が多いです。表面化する前にリスクヘッジすることはプロジェクト・マネジメントのスキームのなかの話ですが、上記3点は管理職としてマネジメントしなければならない対応になります。
1.リソース調整
中間管理職の采配が一番活かされるのがこの調整です。有限ではありますが、明確に自分の采配で調整できるリソースとコストがあります。
”未知の未知”に対しての対応とはいえ、管理職は”最悪のさらに最悪”を想定して、チーム間でメンバーを動かす、益の出ているチームの利益から金策をする、残業の調整をするといった調整が可能です。とはいえ、リソースはすぐには動かせません。先を読んで実際に動かす前に関係する部下には「もしかしたら調整するかもしれない」「xxさんの負荷状況はどう?」などと根回ししておくことが重要です。普段から部下とは直接会話して”リソースの温度感”を生身でつかんでおきましょう。週報や通常報告を受け身だけで集めてもわからないことです。
2.部門間、社外調整
自分のチームだけでリスク対応ができない場合はマネジメント・パワーで調整が必要になります。
- 根回し
- 仁義切り
- 協力依頼
- 顧客との交渉
どれも「管理者がきたからお願いします(許してください)」では済まないですね。
- チームメンバーの状況を把握して調整が必要そうな時期、リソースを意識しておくこと
- 関係する他部門管理者、顧客とコミュニケーションしコネクションを持って置くこと
- 社内の他部門管理者とは”貸し借り”ができる関係をできるだけ多く築いておくこと
- 顧客と交渉するときには小さくても”顧客の勝ち”を作ってWin-Winで交渉すること
3.金策
赤字を出してしまった場合です。管理者が対応する赤字には2種類あると思います。
- 本当に赤字になった場合
- 赤字の商品、サービスをあえて負っている場合
前者と後者では振る舞いが全く異なります。
前者の”本当の赤字”は、未知の未知ですから、通常のマネジメントを遂行していて発生してしまったら”マネジメント予備”を使うしかありません。部門としてどれくらいの”マネジメント予備”=自分の采配で使える”こんなこともあろうかと貯金”を確保しておくか、という話になります。
後者の”赤字をあえて負っている”場合は、会社全体として「赤字だから仕方がない」とは言えず、中間管理職として非常に辛い立ち回りになります。無理だと皆わかっていても全社戦略的に「頑張ってます、黒字化目指します」と言い続けなければならないパターンが多く、部下への指示も頼み難い内容が増えます。間に挟まれる立場は辛いですが、
- ”やらなければならないこと”を決めてブレない
- 自分の立ち位置を意識して”演じる”
- 部下への指示は”覚悟を決めて”指示する
ということを意識して進めましょう。これができない人はハイアラキーな組織で中間管理職はできません。転職を考えましょう。
まとめ ~ 「こんなこともあろうかと」と言えないときに
マネージャーとしてのコンティンジェンシーは以下の3つです。
- リソース調整
”先を読んで”自分のリソースに当たりをつけておくこと。自分の部下にもきちんと根回ししておくこと。 - 部門間、社外調整
他部門管理者と”貸し借り”できる関係を築いておくこと。顧客と交渉するときは”小さく勝ち”をとらせてWin-Winde交渉すること - 金策
本当の赤字には”マネジメント予備”を、会社として既定路線の赤字は中間管理職としての覚悟をきめて”立場を演じる”こと
中間管理職はハイアラーキーな組織の中で戦術と戦略を繋ぐためのコンディンジェンシープランをもたなくてはいけません。難しいことですが、経営と現場の両方を体験できる刺激的な立場でもあります。それを仕事として意味を見出せるか、楽しめるか、で中間管理職という立場や企業内でやっていけるか(やっていくべきか)という”生き方”の選択と言えるかもしれませんね。
「こんなこともあろうかと」とすら言えないときにどうするのか。中間管理職は、これらのポイントでいつも考えていなければいけません。
– 10th July, 2016 / the 1st edition
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