チーム力を発揮する”サーバント・リーダーシップ”~IT中間管理職のイマドキ・リーダーシップ・スタイル / IT Middle Manager can use “Servant Leadership” to bring out potential of own team. |
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目次
「黙って俺についてこい」は時代じゃない
イマドキの中間管理職の上司たち(エグゼクティブや部長)が課長クラスだったころは、高度成長期やらバブルやらで企業や組織のミッションは比較的シンプルでした。とにかく”ガソリンを入れれば入れるほどエンジンは高速で回る”という時代です。こんな時は経営戦略も、その進め方の指示もワンマンでベクトルを示せばうまくいくことが多かったと思います。仕事のやり方も、自分のロールモデルを決めて、派閥に入って、とキャリアパスも近年よりわかりやすかったように感じます。ところが状況は変わり、
- 技術革新のスピードが速くなった
- グローバルで競争相手、ステークホルダーが多様化した
という変革が起きており、
- 経営戦略が多角化し、ビジネスの変化も早いため、ビジョンの提示が複雑になっている
- 現場の情報は増加しているが、エグゼクティブが把握できる情報は限られている
- コントロールするリソースがグローバル化、多様化している
- 経営と現場のパイプ役としてプレイング・マネージャーが中間管理職に求められている
と、リーダーシップのへの要求や位置づけも変わってきています。中間管理職は部下に目標を達成できない反省をもとめるのではなく、自分自身も変革し、変わり続け、ヒーロー型のリーダーシップではなくサーバント・リーダーシップで自部門をうまく成長させたいところです。
参考;IT中間管理職のリーダーシップタイプ
マネジメント(ポジション・パワー)よりリーダーシップ(ヒューマン・パワー)
伝統的なマネジメントはポジション・パワーで、戦略を伝え社員の一人ひとりが経営者的な視点を持ち、戦術を実行できる右肩上がりの状況や、単純な定型ルーチンに落としこまれた業務に有効です。しかしながら、イマドキのIT中間管理職に求められるのは、
- きめ細やかな指示と戦術への落とし込み
- 現場で起きていることの把握と対処
です。戦略の上位下達では済まず、下層へのリーダシップ発揮がより求められている時代です。
サーバント・リーダーとは?
サーバント・リーダーとは、メンバーの意見、状況を良く把握し、人間性をもってアプローチすることで、共感や信頼を得ることでチームを動かすリーダーです。ロバート・K・グリーンリーフ著の「サーバント・リーダー」に記されているバーナード・ショーの言葉がその存在理由を表していると思います。
不平不満を抱えて大騒ぎする利己的な小心者になって、世界は自分が幸福になるために何もしてくれないなどと文句を言うのはやめよう。自分の人生がコミュニティ全体のものであると,私は考えている。そして、命ある限り、コミュニティのためにできるだけのことをすることが、私にとっての栄誉だ。
出典;ロバート・K・グリーンリーフ著「サーバントリーダーシップ」(英治出版)ISBN;978-4862760401
とはいえ、中間管理職にとって、取り違えてはいけないのは、サーバント・リーダーシップはリーダーシップのアプローチであって、自己犠牲や利他的な人間関係を推奨するものではありません。サーバントという言葉はどうしてもそのイメージが付きまといがちです。あくまで中間管理職には戦略を戦術に落としこむ役割が求められ、そのスキルセットとして傾聴や共感などのサーバント・リーダーシップでのスキルが非常に有効である、ということです。
メンバー・オリエンテッドだけでなく、中間管理職としての視点を中心としたリーダシップを発揮するためには、ということをもっと知りたい方は以下の記事もお薦めです。
参考;“サイレント・リーダーシップ”~IT中間管理職が拠り所にするリーダーシップ
サーバント・リーダーとヒーロー型・リーダーの違い~PMスキルを活かそう
サーバント・リーダーシップは部下の中のエース・メンバーを上手く使うことがポイントです。より戦術レベルに落とし込んだ戦略をエースと共有し、中間管理章はその行動をサポートします。対して、ヒーロー型・リーダーの指示系統はマネジメント寄りで、ハイアラーキーな部門単位に情報や指示が流れます。
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サーバント・リーダーは10の属性があると言われます。
MBA経営辞書「サーバント・リーダーシップ」
この中で、以下の4つはシステム構築のプロジェクト・マネジメントを行ってきたIT中間管理職にはイメージしやすいものではありませんか?プロジェクト・マネージャーとして培ってきたスキルを活かすことができます。
- 傾聴;メンバーの状況を空気感も含め把握する
- 共感;プロジェクトの進捗や品質、プロセスをメンバーと共有して管理する
- 概念化;ビジネス・ゴールのあるプロジェクトをITタスクまで落とし込んで管理する
- 先見性;リスクや進捗、コスト状況を把握して、プロジェクトに対してコンティンジェンシーを管理、発動する
前向きな生産性のために~ヒューマン・スキルを発揮しよう
現代の戦略は勝率が低いです。リソースを投入すれば即効果があるものではありません。繊細な舵取りと、多様なリソースのコントロールがIT中間管理職には求められます。そのために、人間力=ヒューマン・スキルが必要なのもプロジェクト・マネジメントとの共通点です。これらはサーバント・リーダー10の属性の残り6つに当たると思います。
- 癒し;厳しいプロジェクトではメンタルを患いそうなメンバーのケアをしたり、自分の失敗談を話してリラックスして仕事に臨ませる
- 気づき;メールや電話でやり取りを済ませず、直接会話でメンバーやチームの温度感を常に把握する
- 納得;メンバーに落とし込んだタスクに納得感を持たせ、高パフォーマンスを引き出す
- 執事役;技術者、担当者がやらない、やれない調整事やとりまとめを率先して行う
- 人々の成長への関与;長期的な視点を持ち、今だけの成果を求めず、成長も促す
- コミュニティづくり;個々への戦術落とし込みではなく、チーム力を発揮するようにリーディングする
ヒューマン・パワーを発揮することで、エース以外のメンバーも自分でミッション、タスクを意識して、業務進行と成長を促すようにすることができます。
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これがうまく作用している組織形態が、ビジョナリー・カンパニーで語られているHP社のようなマインドセットだと思います。(中間管理職よりレイヤーがずいぶん上の話ですが)
「ビルとデーブが私のために働いてくれているのであって、逆ではないような印象をもつ」とある従業員が語った。同社を訪問した人たちが驚くのは、大企業に成長したいまでも、同じ精神が残っていることだ。
出典;ジム・コリンズ, ジェリー・I. ポラス著「ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則」(日経BP社)ISBN;978-4822740313
この哲学がHPではうまく利用されていて各員が経営者でカルトのような文化と謳っています。まさに社員全員に社長がサーブし、社員が最高のパフォーマンスを出すというのが理想です。
時代はドライなのかウェットなのか~サーバント・リーダーは時代遅れ?
終身雇用時代が終焉を告げ、個人成果主義=ドライになっているときに、サーバント・リーダーは本当に有効なのでしょうか?サーバントという言葉からウェットな感じがします。さらにサーバント・リーダー自体は1970年代に提唱された古くからある考え方です。小回りの利かない大きな組織の方便なのでしょうか?
私は違うと思います。
中間管理職がコントロールするリソースはエースだけでは済まない、というのがポイントだと考えます。ルーチンワークを得意とする、或いは各部門に必ずいる効率の悪いリソースも含め、かつプレイング・マネージャーとしての活動を中間管理職には求められている時代なのです。かつてマネジメント寄りだった中間管理職はリーダーシップを発揮して成果を出さなくてはいけない。そのために必要なのがサーバント・リーダーシップなのではないでしょうか。
”俺なりの”サーバント・リーダーシップ~私の経験から
サーバント・リーダーの10の属性で、私なりに実行してきたサーバント・リーダーシップのポイントです。フレームワークというより”普段の心構え”ですね。
プロジェクト・マネジメントのスキルセットを活かす
- 傾聴;部下には部屋のドアも、心のドアもいつも開いておきます。とくに”忙しい”オーラを出さないように注意します。部下からみれば上司は基本的に声をかけにくい存在です
参考;IT中間管理職は部下へどこまで具体的に指示すればいいのか - 共感;たわいのない意見や筋違いの話も一度は飲み込みます。思い付きで反応すると、共感にたどり着くまでに時間がかかるようになってしまいます。共感には多少なりとも時間がかかるもの、と考えてアプローチします。
- 概念化;できるだけ戦略や進め方を図式化したり、ホワイトボードを使ったりして説明します。私は書き味の良いホワイトボードマーカーは必ずポケットに入れています。プレゼンもポイントを絞って部下に説明するようにしています。
参考;IT中間管理職から部下へのプレゼン - 先見性;中間管理職には上下から様々な情報が集まってきます、それをかみ砕いて今後の進展をわかりやすくすることこそ中間管理職の役割と考えます。また、中間管理職が考えるべきコンティンジェンシーも先見性の1つですね。
参考;「こんなこともあろうかと」と言えないときに~IT中間管理職のコンティンジェンシー
ヒューマン・スキルセットを活かす
- 癒し;「上司は自分のために動いてくれている」というスタンスが必要です。「あなただから頼んでいる」「あなたのスキルをに期待している」というポジティブな面を引き出し、部下の力不足、経験不足はマネジメント・パワーでサポートしてあげる度量が必要です。
参考;IT中間管理職になって年上部下に手を焼いてないか - 気づき;中間管理職がサポートする(できる)メンバーは最大でも10名前後。1日一言は直接会話するルーチンを作ります。押し付けの会話にならぬよう、部下が言いたそうなことを言うように仕向ける短い会話を一言でいいのです。
- 納得;時には無茶振りともいえる戦略を自部門の戦術に落とし、各メンバーの得意分野に落とし込みます。得意分野を充てることで各メンバーの納得感を得ましょう。得意分野は一方的な思い込みにならぬよう、”傾聴”でメンバー自身の考えを聞きます。聞くことで得られる納得感も大きいです。
- 執事役;まさにサーバントの部分。エンジニアには苦手な政治調整などでマネジメント・パワーが活かせる調整を率先してやります。
- 人々の成長への関与;全ての得意分野をうまくメンバーに割り振れる訳ではありません。今のポテンシャルから少し上の割り振りも考えます。”ちょっとだけ”の負荷をかけて成長だけでなく、制約下でメンバーがどう立ち回るかという効率化も狙います。
- コミュニティづくり;”聞いてくれる上司”、”やってくれる上司”と思われることが大切です。それにより「良いチームに居る」という信頼感でチームをリードします。但し、”都合のいい上司”にならないよう注意が必要です。
まとめ
部下をサーブすることで、チーム力を引き出す、それがサーバント・リーダーです。サーバントリーダーの属性はプロジェクト・マネジメント・スキルとヒューマン・スキルに大別され、IT中間管理職が積み上げてきたスキルセットが応用できます。但し、”サーバント”とはいえ自己犠牲や利他的な人間関係を推奨するものではなく、戦略を戦術に落としこみ、自部門のチーム・パフォーマンスを最大限に引き出すリーダーシップのタイプです。多角化、多様化する組織や戦術に対応するために旧来の組織マネジメントから考え方をかえてアプローチしましょう。サーバント・リーダーそのものは新しい考え方ではありません。今あるスキルセットを上手く活用し、リーダーシップを発揮すれば効果がでるスキームです。
– 23rd Aug, 2016 / the 1st edition
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