“サイレント・リーダーシップ”~IT中間管理職が拠り所にするリーダーシップ / IT Middle manager resorts type of leadership “Silent Leadership”. |
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目次
かちょうだっていきものさ~中間管理職にも拠り所が必要だ
「チーム力を発揮する”サーバント・リーダーシップ”~IT中間管理職のイマドキ・リーダーシップ・スタイル」で傾聴や納得感でメンバーのパフォーマンスを引き出すことを語りました。それでは中間管理職自身の納得感はだれが与えてくれるのでしょう?多様化する戦略と多彩化する組織で中間管理職がさばかなければいけない事項はどんどん増えています。シンプルなミッションではなく、複雑で矛盾の多い戦略を戦術に落とし込んで成果をコミットしなければなりません。自分自身のキャリアパスやストレスとも対峙しなければなりませんが、ケアをしなければならないメンバーはいる上に、上司からのチャレンジもあり、「俺の愚痴は誰が聞いてくれるんだ」となりがちです。
中間管理職自身のためにある”サイレント・リーダーシップ”
リーダーの責務は何より”コミットメントの実行”です。そしてコミットメントには必ず矛盾、トレードオフ、妥協があり、それを乗り越えるための苦労を受け入れる勇気が必要です。サーバント・リーダーシップはチーム力を高パフォーマンスにするためのスキルセットでしたが、サイレントリーダーシップはリーダー個人のパフォーマンスおけるリーダーシップです。サイレント・リーダーシップは中間管理職自身による目的達成を中心としたスキルセットです。
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参考;チーム力を発揮する”サーバント・リーダーシップ”~IT中間管理職のイマドキ・リーダーシップ・スタイル
サイレント・リーダーシップとは
”サイレント・リーダーシップ”とは私の造語です。10年以上前の書籍ですが、私の座右の書であるジョセフ・L. バダラッコ著「静かなリーダーシップ」をモチーフにしています。
ヒーロー型リーダーシップをトップダウン、サーバント・リーダーシップをボトムパップ型のアプローチとすると、サイレント・リーダーシップは中間管理職を中心としたミドルレンジからのボトムアップ型のアプローチです。中間管理職には上下の情報やアクションが集まる醍醐味がある反面、矛盾、板挟み、自分の価値観との違いを乗り越えて”コミットメント”を打ち出す強いリーダーでいなければなりません。
時には負け戦とも思えるミッションに立ち向かい、あえて難しいリスクに取り組み、自分の信念と情熱を曲げることなく、誇りをもって組織だけでなく、自分のための成果を出すリーダーシップ。それが”サイレント・リーダーシップ”なのです。
なぜサイレント・リーダーは難しいリスクをとっても難題に臨むのか
矛盾や自分の信念との乖離があると多くの人は何もできません。しかしサイレント・リーダーシップでは、あえて難問に取り組んで成果を出すことを是とします。それは、物事の仕組みを都合の良い方だけに解釈せず、いつも冷静に現実主義で物事を考え慎重に取り組んで、成果をだす考え方だからです。
- 慎重だが熱心
- 距離を置きつつも確実
- 分析的でありあがら情熱的
コミットメントを前面に出しながら、自分の信念を曲げないことが”難題に取り組む理由”になります。むしろ、”価値ある苦労”を得て、”さらなる高み”を目指すために進んでアプローチするのです。
そのために、サイレント・リーダーは以下の事を考えます
- 何が問題なのかを考える;取り組む難題の本質は何なのか、自分にとっての問題は何なのかを徹底的に考えます。
- どうやって解決するかを考える;自分が知っていることから、何が不足していて、何を学んで、誰とどうやって関係すればよいのか考えます。
- 本当にやるべきことを考える;自分のスキルや能力、やるべき仕事に対し、代償を払ってでもやるべきか、そうするべきでないかを考えます。
中間管理職が対峙する矛盾~サイレント・リーダーシップの発揮
上記の事を考えても、どうしても矛盾があるミッションが与えられるのが中間管理職の辛いところです。そんなときにサイレント・リーダーはこのように対処します。
- 自分自身の動機付けができない
戦略はときに組織全体の数値目標としては理解できるのですが、自部門のミッションに落とし込むには戦略と戦術の距離がありすぎることがあります。また、戦略そのものが自分が持っている経営理念と乖離している場合があります。
そんなときでもサイレント・リーダーは自分が不適切だと考えず、リーダーシップを放棄しません。とことん考え抜きます。 - 全ての情報を知ることができない
非管理職より情報が多いとはいえ、未知の知は多いのです。生き残って成功するためには、現実的になること、自分の理解を過大評価しないことが重要なポイントとなります。 - インサイダーとの関係
どんな組織、チームにもインサイダー(内部精通者)がいます。自分がアウトサイダーである場合には注意深くインサイダーにアプローチしなくてはいけません。また、自分がインサイダーなのか、アウトサイダーなのか、コミットメントを実行するためにはどの立ち位置になるべきかを考え、立ち回ります。 - 信頼だけではやりきれない
サイレント・リーダーシップでも”信頼”は重要なファクターです。しかしながら、ボトムレンジではないレイヤーでの信頼は時に組織成果に優先します。信頼するときは慎重で一旦信頼したら、簡単にそれが揺らぐとは考えていない。周りの人や状況をみて、信頼関係を見極め、慎重に物事を進めます。
サイレント・リーダーシップのメソッド
サイレント・リーダーシップの特徴は
- アクセル;粘り強さ
- ブレーキー;自制心と謙虚さ
の2つから成り立っています。これらを両立させるメソッドが以下です。
- 足りないものを得る
足りない情報、自分およびそのチームに無いスキルでコミットメントを実行を実行しなければなりませんが、それらは手元にありませんし簡単に手に入るものでもありません。そのため、何が必要か、何が足りないかを探りながら、少しずつ徐々に広げていくしかありません。ここに王道はありませんが、不確実な状況に苦しみながらも考え抜いた自分の信念に基づいた方法を見つけ出し、コミットメントを実行することに専念します。粘り強さが発揮されるメソッドです。 - 時間をかける、稼ぐ
コミットメント実行のために、粘り強く情報を得て、足りないスキルは協力関係を築き、インサイダーらとの立ち回りなどするためには時間がかかります。そのためにはコミットした相手に”時間がかかる”と理解してもらう必要があります。- コミットする相手にオプションを提示し考えさせる
- 既存のやりかたやルールを再考するところに戻って協議する
- 秘書へのメッセージなどあえて時間のかかる伝達手段を使う
などの”時間稼ぎ”を行い、その間に情報収集や調整をします。但し、むやみに時間稼ぎをするまえに、本当に時間をかける価値があるかどうかを見極めてからこのメソッドを実行するのがサイレント・リーダーです。
- 自分の影響力を活かす
足りないものを埋めるため、自分が培ってきた”影響力”を活用します。これまでのリーダーシップの発揮や、仕事での”貸し”を使って、コミットメント実行のための不足情報、スキル、リソースを補います。
但し、- 自分の影響力を切り崩す前に本当にその価値があるかどうかを考える
- 実際に自分の影響力がどれくらいあるのか過信せずに再考してから利用する
- 影響力を駆使して、どのような見返りが具体的に得られるのかを見極める
というポイントに注意です。積み上げてた影響力を利用することは投資の回収と同じです。リーダーであり続けるために健全な利己主義でいることが必要となります。単純に頑張っているだけでは影響力は高まらないし、活用もできないのです。
コラム;信頼残高
組織の中での影響力を発揮したり、インサイダーとなるためには”信頼残高”という考え方が非常に重要です。スティーブン・R. コヴィー著”7つの習慣”の考え方は非常にわかりやすいですね。信頼口座つまり信頼残高とは、ある関係において築かれた信頼のレベルを表す比喩表現であり、言い換えればその人に接する安心感とも言えるだろう。
信頼残高をつくる六つの大切な預け入れ
(1)相手を理解する
(2)小さなことを大切にする
(3)約束を守る
(4)期待を明確にする
(5)誠実さを示す
(6)引き出してしてしまったときは、誠意をもって謝る
出典;スティーブン・R. コヴィー著「7つの習慣-成功には原則があった!」(キングベアー出版)ISBN;978-4906638017- コミットメント実行のために妥協する
今のビジネスは”撃て、構え、狙え”の順番です。その中で自分の信念を完全に保ちつつコミットメントを実行することは実質的には不可能です。サイレント・リーダーは自分の信念とコミットメントに対する動機を信じて妥協を考えて遂行することが最善の方法であることを知っています。その問題が本当に重要であるかどうかを考え抜いた上で、難問に対して傍観者にならず、リスクをとって行動を起こします。
- 苦労を伴ってでもコミットメントを実行すること
- その苦労から利己的に自分に対するメリットを確保すること
- 自分の価値観を守りつつ、結果を具現化すること
サイレント・リーダーは矛盾、苦労に立ち向かいつつ結果を出すのです。
”俺なりの”サイレント・リーダーシップ~私の経験から
私がサイレント・リーダーシップを頼りにしたのは、インサイダーとの立ち回りでした。とあるシステムの導入が私の部門のミッションとして落とし込まれましたが、数字優先の強力な武闘派の営業担当が間に入りました。その営業担当は経営層にも客先にも強力なパイプを持っていましたが、開発現場のパフォーマンスは全く考えていませんでした。そのため、私自身も含め、無理なスケジュールやコストで鞭が入れられ、メンバーはどんどん倒れ、私の心も折れそうになっていました。
この状況に対して私はサイレント・リーダーシップのメソッドにのっとり、- 何をやるべきか、何が足りないかを見極めて、ミッションを再認識
- 足りないリソース、スキルは必要なステークホルダーの協力を調整
を実施しました。
その時に実践のポイントとなったのは以下です。- コミットメントの本質を忘れない
プロジェクトを終わらせることの有期性は大切かつプロジェクトのよりどころですが、終わらせることだけに執着すると何のために難題に立ち向かっているか見失います。目先のコントロールではなく当初の目的がなんだったかの大儀に何度も立ち戻って考えました。
→本来のミッションを大儀とし、足りていないリソースを経営層と、”貸しがある”部門から調達しました。 - ”今だけ”を考えない
全体の目的であるコミットメントの実行のためには、とにかく終わらせたいというマインドから一歩引くことが大切です。リーダーである自分こそが今起きている困難や起きてしまったことから離れて、そもそも論にメスを入れる勇気も必要でした。
→1つのプロジェクトではなく、今後も継続するプロジェクトに貢献、活用できることをステークホルダーに説明し、理解や納得感を得ました。 - スタミナは必要
これらの調整には時間も体力も必要でした。当初から厳しい難題とわかっていての取り組みだったので、自分で”やれる”というリーダーを演じるところから始まり、調整を経て自分の信念やメンバーの納得感として落とし込んでいきました。
→自分の信念(ビジネスの進め方)と異なるところからのスタートで心身ともにきついスタートでしたが、自分の納得感を得るため、と考えることで乗り越えました。中間管理職が納得していないことでリーダーシップは発揮できません。
実践にあたり、ジョセフ・L. バダラッコ著「静かなリーダーシップ」のポーラ・ワイリーの例を読んで心の支えにしました。静かなるリーダーはビジネス書としても良いですが、中間管理職が立ち向かう難題の事例集として本当に良書だと思います。
時間を稼いでうまく活用し、感情的になって攻撃するような不適切なことはせず、自分のために立ち上がったことを誇りに思った。
出典;ジョセフ・L. バダラッコ著「静かなリーダーシップ」(翔泳社)ISBN;978-4798102610まとめ
サイレント・リーダーシップは、
- 中間管理職がもてるスキルと影響力を用いて
- 自分の信念に基づいて健全な利己主義になって
- 不確実なリスクを受け入れつつ意思決定をして
- コミットメントを実行する
リーダーシップです。
何らかの犠牲を払わなければ実行できない場合が非常に多い中間管理職ですが、どんな苦労ななら引き受けても構わないかをいつも突き詰め、自己実現を中心としつつ、経営層の期待に応え、部下の理解を得ましょう。
– 24th Aug, 2016 / the 1st edition
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